*3センチ。(期間限定フリーSS)




「ああ」

彼がベランダに出ていた。

「どうかしましたか」

部屋の中から声をかけると、振り返りもせずに彼が肩を竦めた。

「満月だよ」
「あ。お月見ですね」

まあるいまあるい大きな月。
彼と同じ字を持つ光り輝く、あの。

「・・・・・・もっと良い言葉は無いのかお前は」
肩越しに睨まれてしまった。
「そうは言われましても・・・」

じぃっ。

睨んでくる彼の目を、人差し指を唇に当てて上目で見つめる。
と、彼は居心地悪そうに、眉を顰めた。

「・・・・・・何だよ」
「私にはもっと近くに美人のお月様があるので」

月に照らされる彼の姿は本当にとても綺麗で。
しかし、冗談だととったらしい彼がふふふと顔を歪めたまま笑った。

「ふ、ふふふ。なぁ、竜崎。美人は女性に贈る言葉だよ。悪いけど、僕男だから」

大体、僕はお前のモノじゃないから。
そうも言いたかったらしいが、彼が口を開く前に先手を打つ。

「月くんは女性なんかよりずっと美人です」
「・・・・・・・・・。」

ああ。
変な顔をして。
呆れているらしい。
こちらを見ることを止め、また月の方に視線を戻してしまった。
この手の話を潔癖な彼は嫌う。
彼が何か言い出す前に話題を変えることにした。

「そういえば知ってます月くん」
「何」

振り返りもせずに彼は返事をする。

「私たちが今見ている月は、毎年3センチ程地球から離れていっているそうですよ」
「・・・へぇ」

毎年毎年、誰も気付かないぐらいの速さで。
どんどんどんどん。

「昔はもっともっと大きかったんでしょうか」
「・・・・・・・・・。」



ああ、まるで誰かのようではないか。



「どうしました」

無言になった彼も同じようなことを考えていたのだろうか。
呼びかけるとはっとしたように、こちらを振り向いた。

「・・・いや何でもないよ。それよりも、ワタリさんに言って月見団子の準備でもしようか」

部屋の中へと戻ってきつつ、彼はそう笑った。
いつもの作られたような計算尽くされた笑顔で彼は誘う。

「是非、やりましょう。すぐ」
「・・・・・・涎垂らすなよ」

作った笑みでそう演じる。
ああまた少し遠のいた。



月は離れる。
少しずつ少しずつ。

けれど確実に。











期間限定フリーSS。
Lと月(キラ)。
貴方は遠いところへ行こうとする。
私を残したまま。







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