「お前とはどこまでも平行線を辿るんだ」
「相容れないと」
「そう。相容れない」
「死んだら?」
「死んだら尚更」
お前がたとえ天国に行こうと。
地獄に行こうと。
そこに僕は。
●パラレル・ライン
ホテルの一室。
カーテンを半分開けただけの薄暗い室内。
時計を仰げばAM:4:00丁度。
黒い死神が裂けた口を歪めていた。
その隣に立つ青年は、黒いノートを手にして佇んで。
「流河」
「はい」
「竜崎」
「はい」
「L」
「はい」
「お前がここに来るからには・・・もう僕なんだな」
「はい。貴方しかいないです」
そう告げると月がドサリと椅子に座った。
お前も座れともう一つの椅子を指し示しながら、はははと笑う。
「何が可笑しいのです」
「とうとう負けたのかと思うとね・・・しかも結局Lに」
「そうですか」
彼の勧める椅子の数歩前まで歩み寄り。
しかしそれには座らなかった。
「・・・・・・L、これから僕はどうなる?」
男の座らない椅子を薄く笑いながら見つめて、訊ねる。
「とりあえずのところ政府への引渡しでしょうね」
「それで?」
「死刑でしょう。弁解の余地無く」
「まぁ、それが普通だろうね」
臆することも無く無表情に肯く。
何を考えているのか分からない。
そう思い、見つめていると。
黒いノートの文字を指でなぞりながら、月がくすりと、笑った。
「・・・何、でしょう?」
「L、僕を連れては逃げてくれないの?」
「・・・連れません」
「愛してないの?」
「愛してますよ」
「連れてくれないの?」
「連れません」
「何故」
「愛してるから」
くすくすくす。
夜神月が。
キラが嗤う。
「ねぇ、L」
唇を歪めて。
「僕は、お前のことなんか愛してないよ」
くすくすくすと。
「そうですか」
「ああ。お前なんか、好きじゃない。愛してない」
「そうですか。私は愛してるのに」
「お前なんか・・・嫌いだよ」
お前なんか。
死神が青年の背後でクククと笑っていた。
ケーキを突付きながら竜崎が唐突に口を開いた。
「月くん、貴方は死んだらきっと地獄行きですね」
「どうして?」
優雅な手つきで紅茶を飲みながら、月は目の前の男に目を向ける。
「だってキラでしょう?」
「ははは。違うって言ってるだろう。そう言うんなら、流河、お前だって地獄行きさ」
「何故?」
「名前を偽ってる罪」
知ってる?嘘吐きは閻魔様に舌を引っこ抜かれるんだよ。
くすくす笑いながら青年はそう言った。
「だとしたら私達、死んでも一緒なんですね」
「馬鹿言うなよ」
カチャンと。
カップをソーサーに置く音が響いた。
「お前とはどこまでも平行線を辿るんだ」
「相容れないと」
「そう。相容れない」
「死んだら?」
「死んだら尚更」
お前がたとえ天国に行こうと。
地獄に行こうと。
そこに僕は。
「なぁL。どうしてここへ来た?」
「私には色々情報網がありますから」
ふぅん、と青年が鼻で笑う。
「そう」
ちらりと時計を流し見た。
4:24を回っていた。
「ここでお前が来ることは分かってたんだ本当は」
きっと。
お前が来る。
確信に近い思いで。
「・・・・・・え?」
「なぁ、L」
ふふと青年が笑んだ。
「お前、やっぱり地獄行きだよ」
「名前を偽っている罪・・・ですか?」
すると、青年は緩やかに首を振って。
「僕を愛してるなんていったから」
青年の身体がぐらりと傾いて。
派手な音を立てて、倒れた。
ぴくりとも動かなかった。
『夜神月 ○月×日AM:4:00に夜神月が最も愛する者が現れ、話をした後、同日○月×日AM:4:25最も愛する者の前で苦しむ間も無く死亡』
青年の残した黒いノートの最後のページに。
美しい字で。
一行だけ。
ぽつりと書かれていた。
どこまで行っても交わることの無い線。
交わってはならない線。
生きていても変わらないのなら。
だったらせめて最期の瞬間くらい。
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