● 自傷の傷痕はいつだって無痛。
「莫迦でしょう」
「うるさい」
雨の日は良くないことばかり。
安定することの無い彼に至っては鬱の素らしい。
「メロ、あなた莫迦でしょう」
「お前に言われたくない」
もう一度同じ言葉を繰り返す。
彼の言うお前に言われたくないとは。
15分程声もかけず見据えていたことを言っているのだろう。
バスタブの中にふくらはぎ辺りまで水を溜め、メロはその中にいた。
俯いて、立てた膝の間に顔を入れている。
「メロ」
「うるさい」
「風邪を引きます」
「15分もほっといたクセして」
「メロが風邪を引いたら、私が面倒見なくてはいけないんです」
「見なくていい」
「私だってしたくないです」
ざばっ!
いきなりメロが立ち上がった。
そのせいでニアの服がずぶ濡れになる。
「いきなり立たないで下さい・・・」
「うるさいッ!!!!!」
持っていた剃刀を放り投げ、ずぶ濡れた服のまま部屋へと戻ろうとする。
そんなメロの腕を掴んで、無理矢理床に押し倒した。
「何すんだよっ!!!!」
「いえ、そのまま部屋に戻られると困るので・・・」
「僕が後片付けすればいいんだろっ?!退けったら!!!!」
「あと、そのまま放っておくと厄介なことになりますので」
と、手首を指せば。
うるさいっと暴れだす。
「メロ」
「放せっ」
「メロ」
「放せったらっ」
「メロ」
「離せっっ!!!!!」
「メロ」
余りにも暴れるメロの首筋に、噛み付いた。
途端に、ビクン。と身体が震え。
動きが止まる。
「・・・ぁ・・っ」
「・・・痛くないんですか」
ぎゅっと止血をしながら、気付けば蒼白くなっていたメロの顔を仰げば。
その視線は不自然にゆらゆら揺れて。
瞼がするりと降り。
そのまま失神した。
当たり前だ。
血の気の多そうな性格の割りにもとが貧血気味なのだから。
「莫迦なメロ。」
頭が痛くなってまた不機嫌になるのが分かっているのに。
チョコレィトをかじって気を紛らわせられるつもりなのだろうか。
いつも失敗しているくせに。
メロの傷に目をやる。
メロの傷はいつも綺麗だ。
まるで彼の性格を表すような。
綺麗に真横に引かれた線、ひとつ。
その傷を愛しく思うと同時に酷く厭わしい。
彼の弱さであり強さである、その、瑕。
朝になれば、その傷を憎々しい目で見つめるのだろう。
自傷者の多くは。
自分を傷つけることは他人を傷つけることとは違い、痛くはないと言う。
では、彼は。
・・・彼は?
「・・・・・・・・・」
くっと笑いが込み上げた。
痛いでしょう。
そう問えば。
意地でも痛くないと言い張るのだ。
私に笑われたくないが為に。
だとしたら。
「・・・抉ってやれば、いい」
痛い、と。
泣き叫ぶまで。
懇願するまで。
ああ、雨の日は良くない。
メロの身体をベッドに運びながら思った。
ニアとメロ。
雨は人を狂わせる。全て雨のせい。
だから。
弱さも雨のせいにする。
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