● 私と私と私と私と……。
ぺたりぺたりという足音に顔を上げず、視線を動かす。
「こんにちは」
「こんにちは」
見たことの無い男が声をかけてきた。
黒髪猫背裸足指しゃぶり。
小脇に何か、薄い長方形の箱を抱えている。
こんな人間は初めて見る。
男がしゃがんで、手元を見てきた。
「知恵の輪ですか」
「知恵の輪です」
男が首を傾げた。
「君は引篭もりですか」
「違います。みなが無駄に元気なんです」
メロも施設のみなも。
男がギョロリとした目を窓の外に向けた。
「無駄ですか」
「無駄です」
沈黙。
視線がまたこちらへ戻ってくる。
今度は目が合った。
「似てますね」
「何がです」
人差し指を唇に当て男が無表情に言う。
「私と君です」
「私と貴方ですか」
似てるのか。
似てるのかもしれない。
分からない。
でも。
「私は私です」
視線が外れた。
「そうですか」
「そうです」
きっと似てるのだろう。
似てるからこそ。
「思っても無いことを言わないで下さい」
「すみません」
試さないで欲しい。
人を使って。
「ところで」
「まだ何か」
男が小脇に抱えてたものをこちらに差し出してきた。
「何ですか」
「何でしょう」
疑問を疑問系で返してくる男を無表情で見つめ、長方形の包みを破り開ける。
それは。
真っ白な。
「パズル」
「ですね」
あげます。
そう言って男はぺたりぺたりと部屋を出て行った。
パズルの隅には『L』の一文字。
LとN。
似てる二人。
それは平行線をたどるほど。
けれど異質。
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