いつものことである。
「おい、糞チビ」
「はい?何ですか、ヒル魔さん?」
小首を傾げつつ、やって来たセナにメモを手渡したヒル魔は、悪魔的笑顔で、
「イって来い」
「・・・・・・え?」
そう命令し、斧を振り上げ、ケルベロスの鎖を切り離して、買出しに行かせた。
いやぁあぁああああぁあ!!!!という悲鳴と砂煙が辺りを舞う。
「おーおー・・・今日も4秒2の快走じゃねぇか。ケケケ」
Ya−Ha−!
ヒル魔の笑い声が響き渡る。
・・・全くもって、いつものことである。
ただそれは、それを見ていた人影が、トランシーバーで連絡なんぞとっていなければの話であったが。
ゼハァーゼハァー・・・。
ケルベロスに喰われること無く、どうにか無事繋ぐことに成功したセナは肩で息をしていた。
「・・・・・・つ、疲れた・・・」
そして部室の方へ向かおうとする途中。
「やぁ!」
声をかけられ、振り返る。
そこには石丸が立っていた。
「セナ君、お疲れ」
暑い中、ヒル魔にパシられ、走って戻ってきたセナを、石丸が笑顔で迎える。
するとセナはまるで驚いたかのように、口を開いた。
「アレ・・・石丸さん・・・」
「ん?」
『ボクのために暑い中待っててくれたんですか?』と続くと想像した石丸は、密かに顔をニヤけさせた。
しかし、その気味の悪い顔をチラリと見てしまったセナは、ビクつきながら口を開く。
「石丸さんって・・・」
「うんうん」
『優しいですね』とでも続くのか?!
さらに彼の顔が緩む。
「俺が何だい?」
「えっと・・・その・・・」
「部活に来るの、久しぶりですよね・・・?」
「・・・・・・・・・うん?」
ニコニコ笑いながら、毎日来てくださいね言ったセナは買い物袋を抱えたまま、そのまま振り返ることも無く、部室に向かって行ってしまった。
取り残された石丸は、地面にガックリと膝を付き、呟く。
「俺・・・毎日、一日も欠かさず居たよ・・・セナ君・・・」
陸上部なのにさァ・・・。
石丸、アウト。
「で、最近はそこなのか?」
「あぁ、・・・少々邪魔でな」
「ほぉ・・・」
部室に入ると、人影があった。
「よっセナ、お帰りっ」
「あ、うん、ただいま」
人影はモン太だった。
片手を挙げてニッカリ笑う彼に、あははと笑い返す。
そして、キョロキョロと買出しを命じた張本人を探すが、
「あ、ヒル魔さんならムサシさんと話してたゼ?」
「え?そうなの?」
ムサシと・・・意外だ。
「で、モン太、何してるの?」
ふいに気になって、聞いてみる。
いつもなら普通、練習に打ち込んでるのに。
「当ててみろYO☆」
何か、いつもとテンション違うんですけど・・・ウィンクされてもなぁ・・・。
どう見たって部活でするカッコウじゃ・・・・・・
何故かタキシード(白)に身を包み、赤い蝶ネクタイを付けて、真赤なバラを抱えた彼はまるで・・・
「・・・・・・えっと、もしかして・・・」
「おぅ!」
モン太が笑顔で聞き返す。
言ってもいいのかなァ・・・そう思いつつも、セナは口を開いた。
「・・・漫才?」
「・・・・・・・・・え?」
ピシリと固まったモン太に、図星だったのかなと思ったセナは、彼を置いて「ヒル魔さぁん」とキョロキョロしながら、部室から出て行ってしまった。
固まったままだったモン太は、はっとわれに返る。
「んなっ・・・んなワケ、あるかァーーーーーーっっっ!!!!!!!!!」
と、勢いよくいつもの人差し指を立て踏ん張るポーズをした途端、バリッという小気味良い音がした。
無言でシリを押さえるモン太。
その指の間からは破れた布が見え隠れ。
モン太、アウト。
「まぁ、アイツがあんなんだからいけねぇってのもあんだろうな、そりゃ」
「・・・いいのか?」
「あん?エサ撒いといたから、まーそのうち・・・かかんじゃねぇの?ケケケ」
「ふぅ・・・」
外に出ると暑さが、むん・・・と広がった。
雲ひとつ無い晴天。
グランド近くを通り、覗いてみると、ハァハァ3兄弟がライン練習をしていた。
買い物袋を提げたセナに気付いたのか、十文字が顔を向けてきた。
「あ・・・ど、どうも・・・お疲れサマです・・・」
そう声をかけて、そそくさと立ち去ろうとするセナに十文字が口を開いた。
「おい、セナ」
「へっ・・・?!な、なななな何ですかっ?!!」
真顔で言う十文字に、怯えるセナ。
「ちょっと顔かせ」
真顔。
真顔、真顔、真顔。
どの人物見ても、真顔×3。
3兄弟が真顔。
コ・ワ・イ・・・・・・っ!!!!!!!!!
「ごっごめんなさいぃいいィーーーーーーーっっっ!!!!!!!」
ものスゴいスピードでセナは逃げてった。
取り残される3兄弟。
「・・・は?」
「・・・ハァ?!」
「・・・はぁぁぁぁあ?!」
三人三様、顔を見合わせる。
「「「何で逃げるんだっっっ?!!!」」」
日頃の行いだと気付かない3兄弟。
果たしてそれは幸か不幸か。
ハァハァ3兄弟、アウト。
ぴぴっ。電子音。
「ん。来たみてぇだな・・・」
「誰が」
「イケニエ」
コワっ!
後ろを追ってこないか、思わず振り返りつつ、歩く。
すると前方から・・・
「あ、セナ君」
「・・・・・・」
「・・・え?桜庭さんに進さん・・・?」
ヤッホーと片手をあげて近付いてくるのは、桜庭と進だった。
「・・・何でここにいるんですか?お二人とも・・・ココ泥門ですよ?」
王城じゃないですよ?と小首を傾げるセナ。
すると、桜庭が片手を振って、アハハハと苦笑した。
「そんな、ね・・・言えな」
「小早川セナ、お前に会いに来た」
「・・・・・・・・・は?ボク・・・ですか?」
桜庭を遮り、進が言い放つ。
それをジロリと桜庭は横目で睨んだ。
「ボクに何か用・・・なんですか?」
「あ、それはね・・・」
「質問をしに来た」
桜庭が口を開くたび、その邪魔をする進に苛立った顔をする桜庭。
ちなみに。
進にその自覚は無い。
「おい、ちょっ進っ待っ・・・!!!!!!」
さらに続けようとする進を慌てて止めようとするが、
「俺と桜庭、どちらが好きだ?」
「・・・・・・・・・え?」
しかし止まらずに言い放った進に、アチャーと額を押さえ、しゃがみ込む桜庭。
呟いている言葉は「打ち合わせと違うじゃねーかよ、コノバカ進」という意味不明なもの。
しばらく考え込んでいたセナが顔を上げた。
「ボク、桜庭さんは・・・・・・」
その言葉に反応して桜庭がバッと顔を上げると、そこには困ったように笑ってるセナの顔があった。
「・・・言い方が悪いですけど・・・・・・あんまり・・・」
あはは・・・ごめんなさい・・・。
石のように桜庭は固まった。
そして、セナは進に向き直る。
「俺は・・・」
「進さんは・・・」
一瞬間をおいて、セナがニッコリ笑った。
「進さんは、とっても好きですよ!!!!!!」
セナの目がキラキラと輝いている。
そしてその言葉に、石になっていた桜庭は崩れ去って灰になり、進が顔を緩めた。
あぁ、このままセナをセ○ビーのCMのように両手で振り回したい・・・!!!
「・・・ということは」
「はいっ、とってもっ・・・」
セナが進の手を取り、緩んでいる進の顔を覗き込んで、
「とっても憧れてますっっっ!!!!!!!!!」
嬉しそうに、「じゃ、ヒル魔さん探してるんで失礼します」と言って、4秒2の速さで走り去った彼を、誰が止められたのか。
「ぶっ・・・あはははははははは!!!!!!!」
「・・・くっ」
しまった・・・!セノ○ーは最後、手を思いっきり離すんだった・・・っ!!!
そんなことしたら彼とは二度と会えないじゃないか・・・!!!!!!
壊れたように(実際壊れた)笑う桜庭と、精神的ダメージ(妄想)に苦しむ進。
しばらく、彼らは呻いていた。
桜庭、進、アウト。
「さってと」
「・・・行くのか?」
「おぅ。じゃあな」
「・・・何でもいいが・・・殺すなよ」
後ろを振り返りもせず、軽く手を振る男の後姿。
マシンガンが重く音を立てた。
三宅は廊下を歩いていた。
連中にやはり締め出しを食らったためだった。
「くっそー・・・・・・アイツら。こうなったら一人で独りで動いて小早川セナをオレのものに・・・」
「ほぉぉ」
「・・・・・・え?」
ギクリと三宅が歩みを止める。
すると、後ろからガシリと襟首を掴まれ、動けなくなってしまった。
ギギギ、と音がしそうなニブい動きで、三宅は首を回した。
そこには・・・
「Ya−Haー・・・」
バカな獲物を捕らえ、今にも食わんとする悪魔の姿が・・・。
「ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒル魔っ?あ、あはっあははははは・・・」
三宅の悲鳴が轟いた。
蒼劉さん、まだ付き合ってください・・・
見捨てないで・・・;
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